6 ペンションアミー

モアの旅をして2週間程経ったぐらいだろうか、友人と別行動をすることとなった。友人はこのメキシコシティからまたバスで北上したいと言い出し、俺は少し留まって生活者の視点からこの街を見学してみたかった。線の旅行と点の旅行の違いである。
ロスの空港で待ち合わせをすることにし、いざ一人旅の出発である。
一人でいれば当然何でも自分でしなくてはいけない。安宿のチェックインも、買い物も…。
このへんにくると、俺のスペイン語も簡単なものならマスターし、かわいい女の子には「ボニータ!(かわいいね)」なんて言ってたりもした。
それにしても日本人がなかなかいない。こんな所にまで来て別に日本人にわざわざ会わなくてもいいかとも思ったが、なんだか寂しい。あげくの果てにメキシコ人にまで道を聞かれる始末。同郷の人間とでも思ったか?失敬だ。確かに顔は黒いし、この時はヒゲもはやしていた。でもあんまりだろーよ。
願いは通じるものでそうこうしているうちに、二人組の関西人に会った。
二人組A:「ペンションアミーゴって知っとる?」
俺:「たしかこの近くだと思ったけど」
二人組B:「今日泊まるとこもう決めた?」
俺:「あぁ、もう決めてるよ」
二人組A:「ペンションアミーゴってな、日本人ばっかなの知っとる?女もたくさんいるかもしれへんやろ。ナンパしよかと思ってな」
こんなやりとりの会話が続き、俺は間髪入れず「行こうよ」と二人組といっしょにそのペンションアミーゴを探した。
ペンションアミーゴのことはこの旅行前に、あるガイドブックを読んで知っていた。もともとのオーナーは日本人であり、奥さんはメキシコ人。しかしこのオーナーが他界されたため、奥さんはオーナーの遺志を継いで日本人びいきの宿にした。このため今では長期滞在の日本人が多く、奥さんはオーナーをそうした長期滞在者に任しているとのことだった。
なんとかペンションアミーゴを探し出し、関西人二人組はチェックインし、俺はただ遊びに来たと説明した。
女の子の部屋をさっそく探す。なんだか修学旅行の中学生みたいな気分だった。
ドアをノックするといきなり女の子が二人も出て来た。しかもかわいい。野獣3人組の第六感もいきなりパワー全開である。
しっかり酒まで用意して、宴会スタートだ。
日本ではどこに住んでる?日本では何してた?メキシコはどこの街が面白いか?など楽しい会話が弾む!弾む!
しかし二人組Bの「日本にはいつ帰るの?」という質問あたりから様子が変になってきた。
女A「日本には帰りたくない」
女B「私も帰りたくない。Aちゃんなんてパスポート、わざと捨てて盗まれたことにしてるんだよ」
女A「色々旅して来たけど、私にはメキシコの空気が合うみたい。日本とか日本人ってどーも苦手だよ…」云々。
俺は腹が立って腹が立って仕方なかった。もう無言でコロナビールを飲むだけだった。
『あばれはっちゃく』の「お前の馬鹿さかげには父ちゃん情けなくて、涙出てくるは!」の気分である。
「日本人が苦手なお前らがどーして、日本人の多いペンションアミーゴに泊まっているんだ。こんな限られたちっぽけな社会作っちゃって、何が日本は嫌だだ!てめーら、このままだったら、どこ行っても孤独な毎日送ってしまうぞ!」そんな気持ちでいっぱいで、この後何分もしないで俺は自分の泊まる宿へと戻った。
ペンションアミーゴがどうのこうのではなく、こいつらの生き方がダサかった。月並みだが、外国に長くいればいる程、なんだかんだ言っても日本の良さが見えてくるだろうと俺は思う。逆に異邦人的に日本が見えるのが面白いぐらいだ。
俺の下半身もおじぎして帰ったのは言うまでもない。
お粗末様でした。
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